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「Pメール」の20文字がつなぐ恋 #平成恋歴史

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スマートフォンでLINEアプリを開いて画面を見つめ、文面を考えて指を滑らせ、いまいち納得できずに消して、またいくつかの文字を打つ。いつのまにか増えていたスタンプのリストから、適切なキャラクターの適切な表情を探して送り、なんとなく言い得ていないような気分になって、今度は記号や数字を使った顔文字を物色して、気分にあったものを送る。好きなだけ文字を連ねて好きなように装飾しても、なかなか自分の気持ちを正確に伝えることなんてできないなぁなんて思う。

恋愛中だったら尚更そうだ。そもそも恋というのは、普段なら発生しない欲望がたくさん生まれてくる事態なので、会っていないときには「会いたい」、せめて「つながりたい」、想いを「伝えたい」、できれば「わかってほしい」という軽めの飢餓状態になる。恋する文学者の往復書簡や偉人の恋文が書籍化されて保存されるのも、各々が知っているありとあらゆる言葉を駆使してその欲望と向き合っている様が、滑稽でもあり心強くもあるからだ。届けたい想いはシンプルでも、なぜかそのシンプルな想いがうまく表現できない気がして、人は言葉に言葉を重ねていく。

人の連絡手段の歴史はそれこそ狼煙や手信号にはじまり、近年のインターネットを使ったメッセージのやりとりまで多様な発明があり流行り廃りがあったが、その変遷を彩ってきたのが恋する2人の「会いたい」のやりとりでもある。

LINEでのやりとりが一般的になる前は携帯電話のEメール機能が広く使われていたし、多くの携帯にEメールが搭載される前は携帯キャリアが提供するショートメールなどのメッセージ機能も使われた。電話とメールの間にはFAXも普及した。手紙と電話の間には電報もある。現在を生きる各世代の思春期を思い起こすと、手紙が主流だった世代もいれば、卓上電話で恋人に電話するのが普通だった世代もいれば、初恋のときから携帯電話のメール機能が使えた世代もいる。メールやLINEが当たり前の世代からすれば、手紙や家の電話しか連絡手段がない時代の恋愛なんて想像もつかないほど不自由なものに思えるかもしれない。

さて、手紙や家の電話ほど不便な時代でもなく、スタンプや長文メールほど自由な連絡手段があるわけでもない時代というのも存在する。携帯電話の爆発的な普及前夜、屋外での通信手段としてポケベルと携帯電話、PHSが混在していたころ、そして世界初の携帯電話IP接続サービスであるドコモのiモードが登場する1999年前後、80年代生まれのかつての若者が、20文字に想いのすべてを詰め込んで送りあっていたことがある。

当時、携帯電話の基本使用量は高額だったが、受信しかできないポケベルだと公衆電話の列に並ばねばならず、経済的制限がありながら友人や恋人と頻繁に街に遊びに出かける学生に人気だったのは、基本料金や通信料が比較的安価で、コンパクトでかわいい端末が多かった「PHS」だった。そして急ぎの場合を除いて通話よりさらに安く連絡がとりあえるPHS独自のメール機能「Pメール」が使われることも多かった。

Pメールは、当時のPHSで表示可能だったカタカナと数字合わせて20文字を送信できるサービスで、1回の送信が10円、待ち合わせや約束の時間の確認などに使われていた。ポケベルとちがって端末同士で送受信ができるのが何より便利なのだが、文字数制限がある点ではポケベルと同じ。友人同士の連絡では必要な情報をいかに短縮して正確に伝わるよう編集するかが問題で、それまで「ちゃん」づけで呼び合っていた2人を呼び捨てにしあうきっかけになったり、わかりやすい略語が生まれる契機にもなったりした。マルキュー、プリクラ、チョベリバなどの略称・流行語が登場したのもこのころだ。ギャル語、若者言葉の省略傾向というのは、何も口を開くのが面倒だとか、暗号的なオシャレ感を演出するためだとかで生まれたのではなく、20文字しかなかった表現手段の中で、便宜的に生まれたと考えたほうが自然だろう。

私が初めてPHSを手にしたのは中学3年のときで、一瞬だけ使ったポケベルがあまり便利じゃなくて、高校受験の塾帰りに親に連絡したり、学校終わりに他校の友人と連絡をとりあったりするために、両親の許可を得て電気屋に買いに行った。ほどなくして高校受験が終わり、卒業式と入学式の間の春休みには、高校デビューを目前にいくつかのコンパやイベントに行った。

中学までが私立の女子校だった私にとってそれまでの恋というのはほとんどが片思い、それも通学途中に見ているだけでドキドキする、という初歩的なものだったから、コンパで知り合った年上の高校生とPHSの番号を交換しても、電話なんかできないし、せいぜいPメール機能を使って連絡をしてみるのが精一杯。気になっている男子の番号を電話帳で引いて、メール作成画面とにらみあっては、気の利いた、簡潔な文を考えた。

恋人同士の、あるいは片思い中の相手に送るメールも、当然のことながら20文字に限られる。言葉にしづらいようなことを伝えたり、かわいらしさを演出したりするための絵文字を使うことすらできない。スタンプで曖昧な返事を誤魔化すこともできない。それでもたった20文字の中で、相手に自分を印象づけ、気持ちをほのめかせ、返信を誘うような仕掛けを持ったメールというのがたしかに存在した。「スキヤキノヤキヲヌイテミテ」だとか「スキスキアイシテル」「ナーンテウソ」だとかいうメール文言がCMに登場していたころである。

「イマナニシテルノ? オレハシブヤニイル」なんていうメールに、10分かかって「オウチダヨ。アイタカッタケドザンネン」と返した。再びPHSが鳴って「オレモアイタカッタ」ときた返事に、相手の真意を計りかね、また10分近く考えて、結局何も返事ができなかった。夜中にベッドの中で「ツギハモウチョットハヤメニサソッテホシイ」と送ればよかった、と後悔した。毎日、そんなことを繰り返していた。

それは多様な機能があり、極彩色で立体の絵が描ける今日のメールやLINEに比べると、黒の鉛筆ひとつで平面に絵を描くような不自由さがあるのだが、制限があるからこそ、文面を考える時間やほかに埋もれないような工夫は、確実に自分の「会いたい」を慈しむ時間でもあった。

手紙のような情緒のあるものではない、Eメールのように利便性の高いものでもない20文字の文化は、携帯電話とインターネットの発展・普及の中ですっかり過去の遺物となった。今やワンタッチで送れるスタンプが動き、自分の代わりに音を出したり喋ったりもする。それでもその時代を生きた私たちにとっては、かつて20文字に詰め込んだ気持ちこそが若き日の恋心であって、精一杯の「会いたい」でもあったのはたしかで、20文字によって表したり隠したりする感情を育てながら恋をするのは、愛しい時間だったな、と時々思う。

(鈴木涼美)

Source: マイナビウーマン

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