「普通の人なんていない」『ダルちゃん』はるな檸檬さんと、『大家さんと僕』矢部太郎さんが教えてくれたこと

「普通の人なんていない」『ダルちゃん』はるな檸檬さんと、『大家さんと僕』矢部太郎さんが教えてくれたこと
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『ダルちゃん』はるな檸檬さん×『大家さんと僕』矢部太郎さん対談レポート


はるな檸檬×矢部太郎

 

資生堂のカルチャー・アート・音楽などの情報発信サイト「ウェブ花椿」に連載されたのち、CanCam.jpでも試し読みぺージが掲載中の『ダルちゃん』の作者・はるな檸檬さんと、住んでいたアパートの大家さんとの心温まる交流を描いた漫画『大家さんと僕』が大きな反響を呼んだお笑い芸人の矢部太郎さんが対談をおこないました!

はるなさんの既刊『れもん、よむもん!』『れもん、うむもん!』の担当編集者が矢部さんの担当でもあるという縁で実現したこの対談。お話は『ダルちゃん』で描かれる「擬態」や「普通」といったテーマについて深く掘り下げるものになりました。

★ダルちゃんについてはこちら→ SNSで話題の漫画「ダルちゃん」。主人公の生きづらさに共感の声多数

派遣社員もお笑い芸人も、みんな「擬態」している


はるな檸檬×矢部太郎

 

矢部 『大家さんと僕』を描くときに、勉強のために編集者さんから渡されて読んでいたのが『れもん、よむもん!』『れもん、うむもん!』なんです。読みながら、1行に何文字くらい書くといいのかとか、いろいろ参考にさせてもらいました。

はるな そんなそんな! お恥ずかしいです。

矢部 僕にとっては教科書なので、「はるなさんと対談してみませんか」と提案をいただいたときも、いえいえ、恐れ多いです! って感じだったんですけど。(笑)

はるな (笑)  私が矢部さんを知ったのは『電波少年』だったと思います。矢部さんの第一印象は「モテるだろうな」って感じだったんです。

 

 

矢部 モテ……僕がですか??

はるな 体育会系の男子にいかなさそうな、文系女子にモテそうだと思ったんですよ。文学青年っぽいというか。でも、テレビでいじられる姿を見ていくうちに、ああ、本当はこういう感じなのかって思うようにはなったんですけど。

矢部 (笑)

はるな でも一昨年この本を描かれて、ほらやっぱり! 文学青年じゃん!ってうれしくなったんですよ!

矢部 いえいえそんな。

はるな だから、私としてはなんでモテない感じというか、いじられキャラっぽくしているのか釈然としないところがあるんです。

矢部 モテないのは本当なんですが……、でも、もしかしたら『ダルちゃん』でいうところの「擬態」と似たことをしているのかもしれないですね。

はるな ああ、なるほど。

矢部 やっぱり僕も最初はダウンタウンさんみたいになりたいと思ってお笑いの門を叩いたんですけど、門の向こうにはものすごくいっぱい猛者たちがいて。で、やっぱりお笑いの場で何かするとなると、その場の空気を制圧できる人が一番強い。

はるな うんうん。

矢部 でも僕にそういうことはできない。それでもお笑いをやるってなったときに、「擬態」していて一番楽な形が、テレビで見ていただいているようないじられキャラっぽい姿なのかもしれません。

はるな 私としては、矢部さんのそういう姿を見ると、なんだか傷つくんです。私が感じたような、本来のすてきな部分を本で出せてよかったなと思いました。どうしても、テレビってマスに向けたものなので、人を記号的に見せるというか。

矢部 そうですね、見た目と中身が直結してないといけない。僕は見た目が弱々しいですから、それ相応の振る舞いというか。求められますね。

 

はるな檸檬×矢部太郎

 

はるな いじられキャラとか失敗して笑われるキャラとか、もちろん私も楽しんで観させていただいてますけど、それで消されていく部分もあるのかなと。それを思うと、なんだか傷ついてしまうんです。

矢部 楽だというのもあるんですよね。僕なんかは、番組の企画段階からかかわるタイプではないので、撮影当日に現場へ行って、企画を考えてくださった方の思い描いた役柄通りに一生懸命やる、というだけなので。つい……やってしまいます。(笑)

はるな ああ、確かに。私も派遣社員をやっていた頃は、役割を演じていると居場所ができるというのを本当に実感して。空き時間も多かったし、超楽! って思ってたんですけど、同時にとてもしんどい面もあって。

 

はるな檸檬×矢部太郎

 

矢部 どんなことがしんどかったんですか?

はるな 毎朝ちゃんと準備をして、同じ場所へ決まった時刻に行くことが。今は漫画家っていう、ダルダルのままいられる仕事を見つけたって感じです。

 

 

主婦も会社員もみんなクリエイティブ


はるな檸檬×矢部太郎

 

矢部 『ダルちゃん』の中で、がダルちゃんにとって大切なものとして描かれていますけど、僕は詩を読むことに苦手意識があって。少し難しいなと思ってしまうんですよね。

はるな そうなんですね。

矢部 でも、『ダルちゃん』では詩の味わい方というか、詩を読むということの本質みたいなところが描かれていて、「こういうことなのかな」ってなんとなく掴めた気がしたんです。この作品を通して、詩という表現の奥深さを知りました。

はるな ありがとうございます。でも、私も実はそんなに詩を読むわけではなくて、掲載媒体の「ウェブ花椿」で詩の公募をやっていたのがきっかけなんです。

矢部 詩の公募。

はるな 一般の主婦や会社員のかたがとてもたくさん応募してこられたそうです。「創作を生業としていない人たちも、創作に対してこんなに意欲があるのか」と編集長も驚いたらしいんですよ。

矢部 はい、はい。

はるな 私は、いい暮らしってクリエイティブなものだって思ってるんです。クリエイティブって、絵や音楽を作ることばかりじゃなくて、掃除の手順をより効率的にしたり、収納を工夫したりとか、そういう生活のあらゆることにクリエイティビティを発揮する部分がある。

矢部 うんうん。

はるな 何かを表現する仕事をしていなくても誰もがクリエイティブだし、誰もが自分と向き合ったり、社会に投げかけたいものがあったりする。そういう人たちのことを描こうと思ったのが『ダルちゃん』のはじまりなんです。

矢部 へえ、なるほど。

 

はるな檸檬×矢部太郎

 

はるな 漫画は詩ほど内に向かうものではないけれど、『ダルちゃん』はかなり自分と向き合い、社会に投げかける部分もある内容になったので、批判も受けるんじゃないのかなと怖くなって、公開前日に家でひとりで泣いたりしていました。

矢部 え、まだ批判される前から?

はるな そうです、想像して泣いてました。(笑)  でも、まったく違う反応が返ってきたので本当によかったです。

矢部 きっと多くの人が共感できたんでしょうね。こんなに自分に向き合って描いてるものに対して、「自分はこうは思わない」という意見こそあっても、批判は起きないんじゃないかと思います。

はるな うれしい……。

矢部 そういえば僕、仕事場に『ダルちゃん』を持っていって読んでいたときに「なんですかそれ? かわいい!」って共演者やスタッフの女性たちが食いついてくれて、お貸ししたことがあるんですけど、内容がシリアスなぶん、装丁なんかの入口がかわいいのはとてもいいなと思いました。

はるな うれしい! そうですね、せめて見た目はかわいい感じにしたかったんです。

矢部 でも、借りていった人は次の日「ずど〜ん」ってなって返してくれるんですけど(笑)

はるな すみません(笑)

矢部 かわいい感じで入口が開かれているのはすてきだと思います。

 

誰もが「ダルちゃん」にも「杉田さん」にもなりうる


はるな檸檬×矢部太郎

 

矢部 『ダルちゃん』は、読んでいる誰もが「自分の中にもこういうところがあるな」と思えるんじゃないかと思います。かくいう僕もそれは感じました。

はるな それはどんな部分?

矢部 僕は杉田さんのくだりを読んで感じました。杉田さんは気弱そうに見える女性であるダルちゃんに対してですけど、僕は後輩に対して、偉そうに喋っちゃったりとかしてるなって。

※杉田さん:ダルちゃんに高圧的なアプローチをしかける同僚の男性。

はるな なるほど。ちなみに、杉田さんには特定のモデルがいないんです。人というよりは、状態だと思っていて。誰しもそうなるっていうことを描きたかった。

矢部 はああ、なるほど。

はるな みんなでそういう状況を客観的に見ることで、そこに陥りにくくなるってことがあると思うんです。私はそれを漫画でやりたかった。

矢部 ああ……。例えば、先輩芸人が杉田さん、僕がダルちゃんの立場になる。でもその数分後に、僕が杉田さん、後輩がダルちゃんになってしまっている、というときがこれまでにあったと思います。

 

はるな檸檬×矢部太郎

 

はるな でも、みんなが矢部さんみたいに、自分に照らし合わせて読んでくれるとは限らないなとも思っていて。絶対に自分に反映させない人もいる。自分と関係ないものとして読むほうが楽ですしね。

矢部 そうなんですね。みんな自然と自分に照らし合わせて読むと思っていました。

はるな 矢部さんはとても誠実に読んでくださっていて、うれしいです。そうできる矢部さんは、ちゃんと自分と向き合える強さをお持ちなんだと思います。

 

 

「普通」なんてない、けど


はるな檸檬×矢部太郎

 

取材の最後に、『ダルちゃん』で描かれた「普通」という概念に窮屈さを感じている人に対して、おふたりからメッセージをいただきました。

 

はるな 2巻の最後のほうで書いたことですけど、私は「普通の人」っていないと思っているんです。みんなどこかしら「普通」じゃない部分を持っている。でも、とはいえ社会性みたいなものはないとあなたが困るよね、ということも同時に思っていて。

「ダルダル」と「擬態」、どっちも必要で、バランスが大事。そのバランスはそれぞれ違うけど、自分が納得しているところにチューニングできていますか? というか。

自分で自分に納得しているかが大事。『ダルちゃん』で描きたかったのは、「あなたは自分に納得していますか?」という一言に尽きると思います。

杉田さんとのホテルのくだりは、「自分で自分を裏切っている人」の描写。自分の腹の底から湧き上がる声を無視しないでほしい、と思いながら描きました。

 

矢部 普通」がないっていうのは僕も思います。1人ひとり違うものがひとつになることはない。「普通」に具体的な形があるとしたら、法律が一番近いかもしれないけど、逆にそれ以上のものはないんじゃないかなと思います。法律の範囲内で、「それぞれの普通」を尊重しあうのが一番大事かなと思いますね。

取材・構成:渡辺雅史

『ダルちゃん』
12月6日(木)全2巻同時発売、各巻850円+税
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Source: cancam