わるいひと「AM:7:00」

わるいひと「AM:7:00」
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朝は嫌い。
正しく生きている人と、そうでない人の差が明らかになるから。

1日をはじめたサラリーマンたちの波を、夜を終わらせていない姿で突っ切っていく。視界がぼやけて数メートル先の看板も見えない。替えのコンタクトレンズ、これからはカバンに忍ばせたほうがいいのかも。高校生のピュアだったわたしが聞いたら泣いちゃうようなアイディアだけど。

「あんまりフラフラしないでね」

部屋を出る前の、あれはなんだったんだろう。カーテンのないだらしない部屋で、切なそうな声で囁いていたけど。もっとはっきり言えばいいのに。「ほかの男と遊ばないで」って。

「フラフラしない、約束する」

明らかに嘘とわかるように答えたのはわざとだった。

深く聞かれたくないから、聞かない。核心に迫られたくないから、迫らない。自分は誰のものにもならないくせに、独占欲だけは強いって厄介。

遊ばないでほしいなら捕まえておけばいい。捕まえてくれたら、どこにもいかない。もともと忠犬みたいなのよ、知らないでしょうけど。

少しは苦しめばいい。

ほのかな復讐心で、明日の予定を取り付けるメールを送る。もちろんあなたではない人と。

ねえ、サラリーマン、そんなに冷たい目で見ないで。本当は、わたしも“そっち側”の人になっているつもりだった。あたたかで少し退屈な家で食パンを食べて、家を出る。前から歩いてくる根無し草を哀れな目で見る、そっち側の人。かたい絆とか安らぐ関係性とか、そろそろ手に入れたい年頃ですし。でもうまくいかないんです。どうしてもやり方がわからないんです。立派な会社に入れば教えてくれますか、正しい恋人の作り方ってやつも。

格好良くもない。優しくもない。お金なんか持ってない。髪は癖っ毛だし、女心はわからない。おまけにいびきは、とびきりうるさい。「ばっかじゃないの」。高校生のわたしはそう言うだろう。「まだ子供ね」。わたしは大人ぶることで逃げるだろう。

スーツの波がこちらを飲み込もうとしてくる。風は冷たい顔をして、通り抜けていく。葉がわたしの噂をする。眩しさに抗うように太陽を睨む。悪い男は、嫌い。わたしを悪い女にするから。

(文:夏生さえり、イラスト:oyumi)

Source: マイナビウーマン