努力はダサくて美しい。『百円の恋』から得られるもの #愛されたい疲れに効く映画

努力はダサくて美しい。『百円の恋』から得られるもの #愛されたい疲れに効く映画
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映画ライター、またの名を「Twitter界のニュー卑下アイドル」と名乗るあたそさんが、マイナビウーマンの【脱・愛されたい女特集】に緊急参戦! 男性に愛されたいがゆえに自分を繕ったり媚びたりして疲れてしまった、いわゆる“愛されたい疲れ”の女性たちに観てほしい映画をご紹介します。

■三度観ても泣ける『百円の恋』

「愛されたい疲れに効く映画」といわれて、真っ先に思い浮かんだのが、安藤サクラ主演の『百円の恋』だった。この映画は「恋」というキーワードがタイトルに含まれているのにもかかわらず、決して恋愛映画ではない。ついでにいうと、私は愛されたくて疲れたことなんてないし、ありのままの自分が出せずに恋愛で悩んだこともない。まあ、だから結婚適齢期になった今でも恋人がいないし、華のある話がひとつもないのかもしれないけど。

そんな私以上にモテないのが、この映画の主人公である、斎藤一子だ。32歳で仕事もせずに実家に引きこもって、ゲーム漬けの毎日。自分でも、堂々と「女を捨てている」と言ってしまうほどガサツかつだらしのない性格で、実家が営むお弁当屋さんの手伝いも一切しない。改めて彼女の置かれた状況を言葉にしてみると、崖っぷちであることがよくわかる。

しかし、私はこの映画を三度も観て、わかっちゃいたのに後半のシーンとラストシーンでわんわん泣いた。あいにく映画館で鑑賞することができず、ひとり自室で観ていたのだけれど、こんなみっともなく泣いているところを誰かに見られなくてよかったと思うくらいに泣いた。そして、それと同じくらいの感覚で主演を務める安藤サクラにますます惚れ、単に2時間映画を観ただけにすぎないのに、「また明日からがんばろう」とか「私も新しく何かをはじめてみよう」とか、ほんの少しの希望を抱いてしまうのだった。

■きっかけは、新井浩文演じるダメ男との出会い

『百円の恋』のエピソードはいたってシンプルであるように思う。引きこもっていた一子が、やっと実家を出て一人暮らしするために百円ショップでアルバイトをはじめ、紆余曲折あってプロのボクサーを目指す……といった内容である。このストーリーのなかに恋愛要素を思う存分ぶち込んでくれるのが、新井浩文演じる狩野祐二だった。新井浩文には、最高のダメ男役がよく似合う。この映画に出てくる新井浩文もクソofクソ男もいいところで、クラクラしてしまう。ここも、見どころのひとつ。

一子がボクシングをはじめるきっかけになったのは、いうまでもなく狩野で、彼がプロボクサーだったからだ。リングで戦う狩野の姿がかっこよかったから? 単調な毎日を過ごすなかで、たまたまおもしろいものに出会ったから? それとも、自分を好いてくれた(ように見える)狩野に少しでも近づきたかったから? ……まあ、ヒモ同然で一緒に暮らしはじめたのにもかかわらず、ほかの若い女に浮気されて捨てられるんだけど。

そんななかで、ボクシングにのめり込んでいった一子。着実に実力をつけていき、プロ検定に合格してリングに立つことに。しかし練習と実践は異なっていて、ほとんど相手に攻撃をすることもなく、あっさりと負けてしまう。映画の主人公はかっこよくないといけないのに、この映画ではそうはいかない。引きこもりのダメ女からプロボクサーに変化していく安藤サクラの凄まじい演技に圧倒され、そして無様に負けていく姿はかなりダサくて、現実を突きつけられたような気分になる。やっぱり、そう簡単にうまくいくことなんてこの世にはない。

■「男性に、ひとりの人間として認められること」の難しさ

タコ殴り状態で試合を終えて会場を出ると、一子を待つ狩野の姿があった。私はこの瞬間、「あぁ、やっと認められたんだ」と思った。

男性に、女性として認められるのは簡単だ。別の生き物なんだから、性差を示してあげればいい。女でいつづければいい。だけど、ひとりの人間として認められるのは難しいように感じる。

何もできなかった一子が真面目に働くようになり、ゼロからボクシングをはじめ、立派なプロボクサーになってリングに立っている。どう見ても負けているし、顔はアザだらけ、汗とよだれにまみれながらも必死に戦っている。そんな姿を見た狩野は、ただの暇つぶしの相手だとか気休め程度の付き合いだと認識していた一子を、ひとりの人間として認めたのだろう。

最後のシーンは、2人を映して終わっていく。なんとなく、2人が再び付き合うことはない気がするし、一子の生活に劇的な変化はないのかもしれない。でも、こんなふうに何かに夢中になったり、人に振り回されたり、努力を積み重ねていくことが、ひとりの人間として大きく成長させるのだろう。努力はダサい。でも、美しいのだと思う。

映画『百円の恋』

32歳の一子(安藤サクラ)は実家に引きこもり、自堕落な日々を送っていた。妹の二三子と同居をはじめるも折り合いが悪くなり、しょうがなく家を出て一人暮らしをはじめる。ある日、一子が深夜労働をしていた百円ショップで、ボクサー・狩野(新井浩文)と出会い……。

『百円の恋』DVD好評発売中!
発売:東映ビデオ

(文:あたそ、イラスト:後藤恵)

Source: マイナビウーマン